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福岡地方裁判所 昭和37年(行)9号 判決

飯塚市大字飯塚一、一六八番地の一

原告

飯塚タクシー株式会社

右代表者代表取締役

野上藤三郎

右訴訟代理人弁護士

庄野孝利

福岡市大名町三〇〇番地

被告

福岡国税局長

山本靖

右指定代理人

高橋正

国武格

境吉彦

松尾金三

小林淳

山本保美

右当事者間の昭和三七年(行)第九号法人税審査決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は「原告の昭和三〇年一二月一日より昭和三一年一一月三〇日に至る事業年度の所得金額および法人税につき被告が昭和三七年三月九日附でなした審査決定(福局直法総第四〇号)を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めその請求の原因として、

一  原告は肩書地に営業所を有してタクシー営業をしているものであるが、原告の昭和三〇年一二月一日より同三一年一一月三〇日にいたる事業年度(以下第三事業年度と云う。)における法人税賦課の標準となるべき原告の所得はなく、欠損は金六五〇、六八五円であつたので、所轄の飯塚税務署に対しその旨申告したところ、飯塚税務署長は原告に対し所得額を金三、〇二八、二〇〇円、法人税額を金一、三九九、八九〇円と更正し原告に通知した。そこで原告は同署長に対し再調査の請求をしたところ、同署長は昭和三五年一二月二七日附で所得額を金二、三五二、四〇〇円、法人税額を金一、〇七一、七三〇円と決定し原告に通知した。更に原告は昭和三六年一月一八日被告に対し右決定に対しる審査請求をしたところ、被告は原告に対し昭和三七年三月九日附で原告の第三事業年度における所得を金二、〇六七、五〇〇円、法人税額金九三二、三三〇円とする審査決定(以下本件審査決定という。)をし、これを原告に通知した。

二  しかし、被告のなした本件審査決定には左記の違法がある。

被告が本件審査決定をした理由は

(1)  原告が損金として主張している自動車の減価償却費の内金五七六、九〇三円を否認し

(2)  また同じく原告が損金として主張している雑損失の内金四五〇、〇〇〇円を否認し、

(3)  原告に雑収入金二、〇〇〇、〇〇〇円の申告洩れがあると認定した結果であると考えられる。

しかしながら右(1)(2)記載の金額は当然損金として認むべきものであり、同(3)記載の金額は収入の事実はなく所得として認定すべきものではない。

三  よつて本件審査決定の取消を求める。

と述べ、被告の主張事実中減価償却の否認に関する部分(後記被告の主張二(1))、および、雑損の否認(同二(2))のうち原告が被告主張の営業権を訴外吉川敬太郎に譲渡したことは認めるが、その余の事実は否認する、と述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁ならびに被告の主張として、

一、請求原因一のうち原告の第三事業年度における法人税賦課の標準となるべき所得はなく欠損が金六五〇、六八五円であつたとの点を除くその余の事実、および、同二のうち原告主張の如く損金を否認し、益金の認定をした事実は認める。但し、飯塚税務署が原告の申告を受理したのは昭和三二年一月二三日であり、同申告における欠損額は金六四二、九八五円、飯塚税務署長の当初更正税額は金一、三九二、八九〇円(加算税額を含む。)(3)の雑収入申告洩れ認定は金一、八〇〇、〇〇〇円である。

二、被告のなした本件審査決定は左記の理由に基くもので適法である。

(1)  減価償却等の否認

原告は原告の第三事業年度において総損金に算入すべき固定資産の償却額の計算の方法(法人税法第九条第一項、第九条の八第一項、同法施行規則第二一条、第二一条の三、第二一条の五、同法施行細則第三条、第三条の二、固定資産の耐用年数等に関する省令第一条、第五条による。)を誤り、且つ税務計算上資本的支出として計上し、したがつて法人税法第九条の八第一項の固定資産として償却を行うべきものを全額経費として損金に算入したので、被告はこれを否認した。原告における上記誤りを指摘するため関係部分につき原、被告両者の減価償却計算の基礎を示せば別紙のとおりである。

(2)  雑損の否認

原告は昭和三一年六月六日福岡プリンス株式会社より五六年型プリンス自動車新車一台(登録番号5あ10346)を購入するに際し、同社に下取車として提供した原告所有の中古車の下取価格が金五〇〇、〇〇〇円であつたのにかかわらず、原告はこれを金五〇、〇〇〇円と帳簿に記載し、金四五〇、〇〇〇円を雑損として過大計上し申告したので被告はこれを否認した。

(3)  雑収入の認定

原告会社の一営業所である飯塚市吉原町営業所を根拠として、原告より営業免許の名義を有償で借り受けてタクシー営業をしていた吉川敬太郎が昭和三一年九月二七日自己の名で営業許可を受け、前記営業所において有限会社中央タクシーを新設し営業を始めるに際し、同訴外人が原告に対しタクシー営業に関する権利金の対価として金一、八〇〇、〇〇〇円を支払うことを約したが、原告の申告にはこれが洩れていたので雑収入として認定した。

と述べ、

立証として、原告訴訟代理人は甲第一、第二号証の各一ないし三、第三号証を提出し、証人吉川敬太郎、同坂崎厚(何れも第一、二回)の各証言、および福岡銀行稲築支店、稲築郵便局に対する調査嘱託の結果を援用し、乙第九号証の原本の存在および成立を認め、その余の乙号各証の成立はいずれも不知、と述べ、

被告指定代理人は乙第一号証、第二号証の一、二第三ないし第九号証(第七、第九号証はともに写)を提出し、証人八山博、同衛藤慎吾(第一回)の各証言を援用し、甲第一、第二号証の各三の成立はともに不知、その余の甲号各証の成立は認める、と述べた。

当裁判所は職権により証人衛藤慎吾(第二回)を尋問した。

理由

一  原告が肩書地に営業所を有してタクシー営業を営む会社であること、原告が昭和三二年一月飯塚税務署に対し原告主張の法人税の申告をなし、主張の経緯により被告が原告主張の日主張のような審査決定をしたこと(もつとも法人税申告の受理日、同申告における欠損額、飯塚税務署長の当初の更正額については原被告の主張に若干の相異があるが、これらの点は争点と直接関係がないのでふれないこととする。)は当事者間に争いがない。

二  そこで被告の本件審査決定の適法性について検討する。

(1)  減価償却等の否認について。

この点に関する被告の主張事実は原告の是認するところである。そうすれば被告が原告の主張する損金五七六、九〇三円を固定資産減価償却超過額として否認したことは適法である。

(2)  雑損の否認について

証人衛藤慎吾の証言(第一回)および弁論の全趣旨を綜合すれば、原告の第三事業年度において原告所有のプリンス自動車一台をプリンス自動車会社にいわゆる下取りとして提供し、その下取価格は金五〇〇、〇〇〇円であるのに帳簿上は下取価格金五〇、〇〇〇円と記帳し、金四五〇、〇〇〇円を雑損として申告したことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。してみれば、右自動車の下取り販売につき金四五〇、〇〇〇円の資産減少を生じたとの原告主張の誤りであることは明らかで、本件審査決定において原告主張の雑損金四五〇、〇〇〇円を否認したことは正当である。

(3)  雑収入について。

成立に争いのない甲第三号証、乙第九号証、証人八山博の証言および弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第三号証、証人吉川敬太郎、同衛藤慎吾の各証言(いずれも第一回)によつてこれと同旨の原本の存在およびその成立することを認めうべき乙第七号証、証人吉川敬太郎、同衛藤慎吾の各証言(いずれも第一、二回但し証人吉川の証言中後記措信しない部分を除く。)を綜合すること。

(イ)  吉川敬太郎はもと原告会社経営の飯塚市吉原町営業所主任であつたが、昭和二九年夏頃にいたり原告会社代表者大場敏雄との話合いのうえ、吉川自身が右営業所で新規に免許を受けてタクシー営業をなすことを企図するにいたつたこと。

(ロ)  その当時右営業所に配車されていた自動車四台は名義は原告会社になつていたものの、その購入代価は吉川が支払つたもので同人の所有であつたが、同人は免許を受けていないために原告会社名義にしていたにすぎなかつたこと。

(ハ)  一方吉川がタクシー営業免許申請をなすにあたつては原告会社代表者であつた大場の捺印を必要とし、また当該地域におけるタクシーの台数は一定数に限定されていたために、新規に営業免許を受ける者があれば他の既存業者のタクシー台数が減少せざるをえない関係にあり、吉川が昭和三一年にいたり営業免許を受け中央タクシーの名で営業を開始した際には原告会社のタクシー台数が減少させられたこと、また右営業開始当時吉川所有のタクシーは四台位であつたこと。

(ニ)  かくして原告は吉川が前記営業の免許を得ることに協力し、同人が営業免許を受けたときは原告会社の吉原町営業所を廃止し、右営業に関する一切の権利義務を吉川に譲渡することを承諾したが、原告会社の税金対策上昭和二九年一二月二八日貸主を大場、借主を吉川とし、弁済期を昭和三〇年一二月末日とする金一、〇〇〇、〇〇〇円の内容虚無の金銭消費貸借契約に関する公正証書を作成すると同時に更にその細目を定める契約書を作成したこと。

(ホ)  右契約書において吉川は大場に対し前記貸金一、〇〇〇、〇〇〇円のほか昭和三〇年一月より同年一二月まで毎月利息金五〇、〇〇〇円合計利息金六〇〇、〇〇〇円および別途同年一月より同年一〇月まで毎月金二〇、〇〇〇円合計別途金二〇〇、〇〇〇円総計金一、八〇〇、〇〇〇円を支払うこと、ならびに原告会社は吉川が営業免許を受けたときは吉原町営業所のいわゆる営業権を吉川に譲渡すること、吉川が自己名義で営業を開始する場合の吉川のタクシー台数は四台とすること、を内容とするいわゆる営業権譲渡に関する取り決めをなしたこと。

(ヘ)  右取り決めに従い吉川は昭和三一年原告会社の第三事業年度内に前記原告会社より右営業の譲渡を受け(営業譲渡の点は当事者間に争いがない)、その際金二、〇〇〇、〇〇〇〇円前後の対価を原告会社に提供したこと。

(ト)  昭和三一年当時タクシー営業のいわゆる営業権の取引相場は自動車一台につき金五〇〇、〇〇〇円程度であつたこと。

(チ)  税務調査に際し吉川は同人保管の帳簿の調査を拒否し、原告会社は元帳の調査には応じたが、右帳簿には関係事項の記載がなく、且つ原告会社は前記営業譲渡に関する対価の授受を否定したこと、従つて被告は前記(イ)ないし(ト)の事実を検討した結果原告が昭和三一年九月吉川より前記営業譲渡の対価として少くとも金一、八〇〇、〇〇〇円の支払を受けたものとして同額の雑収入を推認したことを認めることができ、証人吉川敬太郎、同坂崎厚(何れも第一、二回)同八山博の証言中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

してみれば被告が前記(イ)ないし(ト)の事実より原告が昭和三一年九月吉原町営業所における営業を吉川に譲渡し、その際対価として吉川より金員の支払を受け、その収入金を金一、八〇〇、〇〇〇円と推認したことは相当であるといわなければならない。

三、以上述べたところによれば被告のなした本件審査決定は適法であり原告の主張は理由がないからその請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江崎弥 裁判官 松信尚章 裁判官 斎藤清六)

(別紙)

飯塚タクシー株式会社

昭和30.12~31.11事業年度

減価償却対比表

〈省略〉

1.黒字は原告の申告した数字、※を附したものは被告の審査決定額である。

2.金額を表わす数字の単位は円、率を示すのは小数以下の数である。

3.当期中取得した資産については期間計算を行つた。

4.〈1〉には原告が当該車輛に設備し、全額経費として計上したメーター器(本来資本的支出であるから、車輛価格増加として減価償却の対象とすべきもの)の価格40,000円が加えられている。

5.〈2〉には前項同様、メーター器の価格40,000円が加えられている。

6.〈3〉には前項同様、メーター器、ヒーター器の価格54,000円が加えられている。

7.〈4〉には、原告が雑費として計上した自転車を減価償却の対象とした計算である。

8.〈5〉は、原告が修繕費として全額損金算入した車庫工事に関するもので、これも資産の価格増加と考え、減価償却の方法をとるべきものである。

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